38億年の生命史に学ぶ生存戦略

概要

植物学者、生物学者である著者が、生命38億年の進化の歴史の中で生き残った生物の戦略を解説してくれます。特に、ビジネスの戦略とくらべながて、生物と企業の戦略の共通点を上げて、「なるほど!」と、ものごとの本質が垣間見れます。読者に新しい視点を与えてくれる1冊となるでしょう。


著者 稲垣栄洋

“1968年生まれ。静岡大学農学部教授。

農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林水産技術研究所を経て、現職。”

著者は、生物でも植物の研究の方です。

特に、雑草を研究していて、本の端々に雑草の愛が感じられます。

紹介文

サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長 新浪剛史氏

”植物や生物の成功戦略が、これ程ビジネスの成功戦略と重なっているとは意外だった。

先の見えない混迷の時代の新しい光となるかもしれない。”

新浪氏は、ローソン、サントリー、大企業の社長としてビジネスの世界の中心で活躍されている方です。

その新浪氏が、本の帯で、生物の成功戦略とビジネス成功戦略が近いといっているので、説得力があります。

『38億年の生命史に学ぶ生存戦略』目次

第1章 生き物にとって競争とは何か?

 

第2章 生き物にとって変化とは何か?

 

第3章 生き物たちのオンリー1戦略

 

第4章 生き物たちの戦略

 

第5章 生物進化のイノベーション

 

この本から学べること

著者の主張から、わたしが感じたのが

  • ナンバー1になれるオンリー1の場所をみつけよう

ということです。

 

生物学の「競争排除則」の考え方では、競争すると1種しか生き残れない、と紹介しています。

「それなら、どうして自然には、いろんな生物がいるの?」という疑問に対して、

“ナンバー1しか生きられない自然界にどうしてさまざまな生き物がいるのだろうか。

この答は明確である。

自然界に生きているすべての生物ナンバー1なのである。

~中略~

すべての生き物は、「ナンバー1になれるオンリー1の場所」を持っている。

このナンバー1になれるオンリー1の場所を、生物学では、「ニッチ」と呼んでいる。”

すべての生き物がナンバー1というと、不思議に感じるかもしれませんが、さらに、

“生物にとって「競争」とは何か?

何しろナンバー1しか生きられない厳しい世界である。生物の世界では、常に激しい生存競争が繰り広げられている。

負けたら滅びるという競争である。どんな勝者であったとしても、連勝に連勝を重ねて勝ち続けるのは容易でない。

その中で、競争を生き抜くために生物が発達させてきた戦略が「戦わない」という戦略である。”

純粋に競争に勝ち残ったナンバー1の生物が生き残るというよりは、競争を避けて、あるいは逃げて、ナンバー1になれる場所「ニッチ」を見つけてた生物が生き残ってきたということです。

わたしたちが受験勉強やスポーツの世界で、同じ競技でナンバー1になれる強者は、たった1人でしかありません。

ほとんどの弱者は、勝てない競争をがんばるよりは、戦わなくてもナンバー1になれる自分が得意な場所を探せということでしょう。

そこで、著者は、生物の戦略を俯瞰して、次の4つのナンバー1をとる方法を紹介しています。

  • 単純なナンバー1
  • 反対方向のナンバー1
  • 独自のものさしでナンバー1
  • 独特の世界でナンバー1

それぞれみていくと、

単純なナンバー1

足の速さでナンバー1のチーターのような動物です。ただ、著者は、単純なナンバー1は、お気に召さないようで、

“チーターはスピードを手にいれるために、体重を軽量化させた。そのため、他の動物と戦う能力に欠けるのである。チーターは、自慢のスピードで、狩りの成功率は高い。しかし、他の肉食動物との戦いには弱いので、せっかく狩った獲物を横取りされてしまうのも多いのだ。”

チーターの弱点も指摘しています。


反対方向のナンバー1

通常、大きいことは生存競争に有利であるけれど、あえて、小さいことを選択したネズミのような動物です。

“敵が大きければ大きいほど、「小さいこと」は身を守る武器となる。敵が大きければ、小さな物陰には入っていくることができない。しかも大きな敵は、小さな動物を見逃しやすい。”


独自のものさしでナンバー1

植物のCSR戦略を例にあげています。CSRとは、C「コンペティティブ(競争に勝ち抜く力)」S「ストレス・トレランス(ストレスに耐える力)」R「ルデアル(変化に対応する力)」です。この例で、砂漠の厳しい環境に生きるサボテンや、氷雪に耐える高山植物を上げています。

“この予測不能な激しい環境に臨機応変に対応するというの能力を高度に発達させたのが、私たちの身の回りにある「雑草」と呼ばれる植物である。”

「雑草」への愛が感じられる記述もみられます。


独特の世界でナンバー1

“生物にとっての独特の世界とは、「独特の生息空間」や、「独特のエサ」ということになる。”

ということから、猛禽類の鳥がいない「夜」にネズミをハンティングしているフクロウ、冬の終わりにいち早く花を咲かせるフクジュソウ、水の中でもなく、外でもない水の表面で落ちてきた虫を食べるアメンボの例を挙げています。


その他、どのように生き物が生き残っているのか、生物学や生態学の考え方をもとに、いろんな生物や会社の事例を紹介しながら、説明してくれています。

教えられることを勉強したり、うまくいっている会社を真似ること違和感を感じている方におすすめです。企業の例が多いですが、個人の生き方としても、多様な生物の戦略は、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

 

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