進化思考

概要

斬新なデザインで、様々な賞を受賞しているデザインストラテジストの著者が、人間の創造活動と生物進化の不思議な類似性を指摘しながら、社会の中で生き残っていくようなモノを創造する考え方や手法を伝授してくれます。

デザイン・企画・開発など、創造活動にかかわるすべての人に、おすすめできるイノベーションを体系化した本です。

『進化思考』表紙

著者 太刀川英輔

"NOSIGNER代表、デザインストラテジスト、進化思考家、慶應義塾大学特別招聘准教授

創造性の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、様々なセクターの中に美しい未来をつくる変革者を育て、想像教育の更新を目指すデザイナー。"

著者は、建築を勉強をされたデザイナーで、たくさん賞もとられています。

「創造」について探求していく中で、生物の進化に取り憑かれ、創造活動に役立つ「進化思考」として体系化しています。自身のことを「進化思考家」と呼び、ライフワークとして「進化思考」に取り組んでいます。

紹介文

ビジネスデザイナー 濱口秀司

”進化パターンの百科事典。統合の要素が分かれば、誰もが創造できる。”

面白法人カヤック代表 柳澤大輔

”ここまでイノベーションを体系化した本はなかった。”

ビジネスの世界で新しい商品を次々と生み出している濱口氏、柳澤氏がイノベーションの体系化した本として評価しています。

『進化思考』目次

序章  創造とは何か

 

第1章 進化と思考の構造

 

第2章 変異 HOW

 

第3章 適応 WHY

 

第4章 コンセプト

 

終章  創造性の進化

この本から学べること

私自身、自然の見方が、いろんなところで役に立つのでは、という問題意識があったので、「進化思考」というタイトルをみて、すぐに本を買ってしまいました。著者がいいたいことを、わたしが一言で伝えるなら、

  • 変異と適応を往復して、生き残るコンセプトを創造せよ!

ということです。

 

でも、そもそも、どうして、創造に、生物の進化でつかう「変異」や「適応」が関係あるのでしょうか?

 

著者は、創造活動を探求する中で、

  1. ノーベル賞をとるような創造的な発見をした人のIQが、それほど高くない
  2. 学校教育で秀才だった人が社会人になり、新規性のある企画を考えるよういわれ、茫然自失になる
  3. 脳科学では「感覚的な右脳」と「論理的な左脳」が往復しながら思考を補い合っている

といったことをあげ、

"こうした考察を通して、私はひとつの結論に達した。

創造性とは、「狂人性=変異」と「秀才性=適応」という2つの異なる性質をもったプロセスが往復し、うねりのように螺旋的に発揮される現象であるという考えだ。 ~中略~

変異と適応の往復に、創造という現象を含めた、あらゆる知性の構造に対する普遍的な仕組みが隠れている。そんな視点で自然界を眺めたら、これとそっくりな現象を、生物の知的構造にも発見できた。"

頭がいい「秀才型の思考」だけでは、創造できず、創造には「秀才型の思考」「狂人型な思考」両方の思考を、いったりきたりする必要があって、また、自然界の中に、これに似た現象があるとしています。

"自然界に存在する知的構造の極めつけとして、創造に大変よく似た自然現象がある。それは生物の進化だ。では、進化とは何なのか。まさに進化とは、エラー的な変異と自然選択による適応を繰り返す、生物の普遍的な法則性のことなのだ。

 生物は、38億年という気の遠くなるよう歳月をかけ、変異と適応を繰り返して進化を実践してきた。その結果、3000万種類もの形態を想像し、多様性のある環境を構築してきたのである。あらゆる生物は、不思議なほど、形態や行動、身体機能などが、その生存戦略とうまく合致していいる。「巧妙にデザインされている」と言い換えてもいい。まさに、生物学ではこの合致を指して「適応」と呼ぶ。"

この気づきから、著者は、創造するための「進化思考」に取り憑かれていきます。

変異について

" ~私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を発見しただけだ。~

このエジソンの言葉は、決してたとえ話ではない。実際に彼は、電球を明るく長時間照らすために、フィラメントに十分な性能を求めて約6,000種類の素材を試し、そのほとんどが失敗した。それでも彼は、諦めずに短い糸切れを入れ替えつづけ、最終的に京都産の竹の繊維がフィラメントに適していることを発見した。"

という例をあげて、創造にはたくさんのエラー、進化でいう「変異」を生み出すことが必要と述べています。

"では、何が創造を洗練させるのか。欠陥があるものや需要のないものは自然淘汰される。物を作る人はエラーをしつづけることで創造を前進させるが、創造を洗練させるのはユーザーや市場への適応なのだ。つまり創造性のためには、作り手は成功失敗を問わず、変異に挑戦しつづけることが不可欠なのである。"

洗練されたものが最初から作れるというよりは、たくさんトライアル&エラーを続ける中で、洗練されたものが「適応」して生き残る、といっています。

 

どうやって、新しい「変異」が生み出されるかというと、著者は、生物がDNAの複製エラーで変異を生み出すように、人間は、言葉の伝達ミスといった言語のエラーで生み出されると考えています。言語の変異のエラーのパターンはおおむね 9つにわけられ、「変量」「擬態」「欠失」「増殖」「転移」「交換」「分離」「逆転」「融合」の 「変異9パターン」としてまとめています。

 

例えば、「増殖」なら、生物ならムカデが足を増やしたように、ボタンという部位を増やしてつくったピアノやタイプライターがあてはまります。

変異の9パターン
変異の9パターン

適応について

"周囲を無視して社会に適応できるか確かめていない無垢な発想を世の中に出しても、時間を経て淘汰されてしまう可能性は高い。せっかくお金と時間をかけて努力の末に生み出したモノが淘汰されるのは、とても辛い。何より自分が考え出したことを否定されるのは、まるで自分の存在が否定されてたように感じてしまう。

 そうした痛い経験によって、人はいつのまにか創造への挑戦そのものを避けるようになる。"

著者は、創造するためには、「変異」という挑戦が必要としているが、「変異」が適応できず、淘汰されてしまうことで、挑戦をあきらめる人の心理を述べています。

"私たちは誰しもさまざまな経験を積み重なるなかで、徐々に固定観念を積み重ねていく。カエサルの言う通り、人は自分の物差しでしか物事を計ろうとしない。そうすると、そのモノが何で構成されているのかに無自覚になったり、周囲のつながりに気がつかなくなったり、過去からの恩恵に目が向かなくなったりする。思い込みの発生だ。思い込んでしまうとわかったつもりになって、実はわかっていない自分に気づかなくなる。"

また、思い込みによって、どんなモノが社会に適応できるかを見誤ってしまうことも指摘しています。

 

"創造的であるには、世の中に張り巡らされている見えない本質を観察して、自分だけの思い込みを外す方法を培う必要がある。"

思い込みに走って、淘汰されるモノを創造してしまうことを少なくするために「時空観観察学習」という 4つの分析が役立つとしています。

"「解剖」「系統」「生態」「予測」という 4つの分析によって適応を観察する。この 4つの見方で世界を観る観点を合わせて、「時空観察学習(Space-time Adaptation Learning)」と呼んでいる。

 そして大雑把すぎる言い方かもしれないが、あらゆる観察手法は、実はこの 4種類しか存在しないのではないか、とすら私は考えている。

 なぜかといえば、これらの分析手法がそれぞれ、ミクロ(解剖)からマクロ(生態系)の空間、過去(系統樹)から未来(予測)の時間に対応しているので、時間と空間にわたって適応関係を網羅できるフレームワークだからだ。"

この 4つの視点を行ったり来たりしながら、いろんなアイデアから社会により適応できるモノに洗練させていくことができるとしています。

時空観マップ
時空観マップ:時空観学習の4つの視点
解剖-中身を分けて理由を観察する
系統-仏事の古くからの文脈を知る
生態-モノや人の繋がりを理解する
予測-未来の課題を知り希望を描く 

例えば、「解剖」なら、モノをつくるために必要な部品を抽出したり、製造方法を見直してみることがあたります。

"形だけでなく製造プロセスも、なるべく少ないほうがいい。モノには形だけでなく、その作り方にも最適化の圧力がつねに働いている。同じ目的を実現するなら、時間や材料の無駄は少なければ少ないほど良い。どうすればもっと効率的に作れるだろう。こうした最適化の先に、プロセスの美しさが生まれる。"

コンセプトについて

"そもそも、コンセプトとは何なのか。そう、コンセプトは、私たちが創造のプロセスでよく使う言葉だ。英語には Conceptionという言葉がある。そのまま「コンセプト、構想」という意味でも使われるが、この言葉には、別の意味があるのを知っているだろうか。

Conception は、英語で「受精」という意味を持っている。この意味を知ったとき、私は唸ってしまった。"

著者は、創造に使われる「コンセプト」という言葉が、生命のはじまりである「受精」と同じ言葉であることに、創造と進化の深い類似性を感じたと語っています。

"変異と適応の思考から浮かび上がる 2つのコンセプトは、それぞれ性質がまったく異なる。しかし 2つが呼応することによってはじめて現実を変化させる力が発生する。変異しなければ時代に適応できず、本質的な適応を果たした変異以外は長い時間のなかで淘汰される。だが「変異(新しい方法)」と「適応(本質的な願い)」の往復によって、その 2つが一致したときに、生き残るコンセプトが自然発生する。"

変異と適応が一致した先に、歴史に残る価値ある生き残るコンセプトが生まれるとしています。また、創造的であること、そのものがヒトの生存戦略であるとともに、創造性を発揮することに幸せを感じるように、私たち人間が進化してきたのだろうと締めくくっています。

新しいコトやモノを創っている人、創りたい人には、いろんな示唆を与えてくれる本です。本の中では、変異では「変異の9パターン」、適応では「時空間学習 4つの視点」について、いろんな事例を細かく紹介しながら説明してくれます。きっと著者の博学ぶりに圧倒されるでしょう。著者は、教育にも進化思考を取り入れたいと考えていて、進化思考で創造的なプロジェクトが生まれてくれたらと本書で述べています。

 

本には、「進化ワーク」というアイデア出しの方法が載っているので、ぜひ、実際に本を買ってみて、みなさんのテーマで「進化ワーク」をやってみることをおすすめします。

 

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『進化思考』に興味を持たれた方、『進化思考』で紹介されているような生物の戦略をカンタンにご自身の活動に生かしてみたい方は、ぜひ、お手に取っていただければ幸いです。

 

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